プログラミング教育開花の陰で
-追悼、シーモア・パパート-
マサチューセッツ工科大学(MIT)名誉教授、シーモア・パパート氏が昨年7月、88歳で死去しました。
パパートの功績を視線106回でご紹介しましたが、発達心理学者ジャン・ピアジェの共同研究者、人工知能の研究者、MITメディアラボの創設者の一人として知られています。また、教育用プログラミング言語「LOGO」の開発と教育実践、LOGOのプログラミングでLEGO©ブロックのロボットを動かす「LEGO © LOGO」の開発・普及、LEGO©社のロボットキット「Mindstorms(マインドストーム)©」の考案…と、プログラミング教育・ロボット教育は、パパートが源です。これに留まらず、MITメディアラボ初代所長ニコラス・ネグロポンテやパーソナルコンピューターの父と言われたアラン・ケイらとNPO法人「One Laptop Per Child(OLPC)」を設立し、「100ドルPC」と呼ばれたノートPCを開発し、貧しい国の子供達にPCを届ける活動にも尽力しました。
2013年12月オバマ演説『全ての人よ、プログラミングを!』(視線86回)を機に、米国を始め世界中でプログラミング教育の火がつきました。日本も2020年に小学校で必修化する方針となり、今やプログラミング教室やロボット教室が雨後の筍のようにできています。当アカデミーは、2000年にレゴ©ブロックとロボットを教材とした教育を始めました。当時は理解を得られず、最初の1年半は生徒10数名という状況を振り返ると隔世の感を覚えます。08年にScratch講座を開いた時も受講者は皆無でした。やっと時代がTruthに追いついた感じです。おそらくパパートも60年代から手掛けてきた教育の意義と必要性が、世界に認められ、多くの子供達がプログラミングを学ぶ時代になったことを心底喜んでいるでしょう。パパートがいたからこそ、Mindstormsを初めとするロボット教材で、彼の愛弟子ミッチェル・レズニックがLOGOを現代版に進化させたScratchで学べるのです。
リトル・ダヴィンチ理数教室でも、今春から毎週の授業にプログラミングの思考を育てる活動を始めます。一方、ロボットサイエンスでは今後対象を現在の小3生~を小4生~にする必要性を感じています。パパートは「デバグの効用」(視線109回)を唱えています。ロボットがうまく動かないとき、ソフト面やハード面、PCとロボットの通信など、バグの特定に数多くの観点から検証を行わなければなりません。正直なところ、小3ではまだ難しいと実感しています。子供は、幼児期との永久の決別である「9歳の危機」を乗り越えた後に、世界を客観的に見る目を持ち始め、抽象的・論理的思考ができるようになります。今年度は、ブロックサイエンス在籍生が両コースを選択する場合のみ、小3生を受け入れます。
ところで、最近のロボット教室やプログラミング教室を見渡すと、まるで1つの教科のように、ロボットやプログラミングそのものを学ぶことが目的となっている気がします。「コンピューターが人々の考え方や学び方をどのように変えていくか」という疑問から、パパートが提唱したのは、『コンストラクショニズム』という教育理論です。当アカデミーは、ブロックやロボット、プログラミング、算数教材や理科実験をあくまで一つの教育ツールとして、21世紀に必要な学力を実現するのに極めて有効な『コンストラクショニズム』を日本の教育に根差し、普及することを目標にこの17年間、実践をしてきました。教育関係者からは、「理論と実践が完璧に一致している」という高い評価を得ています。パパートの死を悼むと共に、彼が提唱し目指してきた教育をこの日本の地でより効果的に実現すべく、邁進していきたいと存じます。