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2018年10月13日土曜日

トゥルースの視線【第133回】

AIは人間を超えられるのか?(2)
日本の子どもたちはAIに勝てるか?

 前回に引き続き、国立情報学研究所教授、同社会共有知研究センター長、一般社団法人教育のための科学研究所代表理事・所長の新井紀子氏著「AI vs教科書が読めない子どもたち」の内容を簡単にご紹介いたします。まず、なぜ東ロボくんが東大受験を断念したか?それは、AIの限界を証明したからです。

 「真の意味でのAI」が人間と同等の知識を得るには、私たちの脳が意識無意識を問わず認識していることをすべて計算可能な数式に置き換えることができることが大前提になります。しかし、数学が4000年の歴史をかけて発見した数学の言葉のすべては、「論理」「確率」「統計」の3つに限られています。AIといえどもコンピューターは計算機であり、できることは基本的に四則演算だけ、しかも使っているのは足し算とかけ算のみ。数学には「意味」を記述する方法がない。だから、AIには意味を理解する仕組みが入っているわけではなく、あくまで「あたかも意味を理解しているフリ」をしているに過ぎないのです。

 「2016年度第1回東大入試プレ」で、東ロボくんは数学では偏差値76.2を記録したものの、150億もの英文を暗記した英語の偏差値は50.5、国語に至っては49.7にしかならず、東大の挑戦権を得るには遠く及びませんでした。ディープラーニングの限界を証明したことは、東ロボくんプロジェクトがもつ意義ではあります。しかし、多くのホワイトカラーの職がAIに奪われるという予想が現実のものとなることをも示唆しました。1学年の数は約100万人、その半分の50万人がセンター試験を受験し、東大君がその上位20%に入りました。東ロボ君に負けた80万の子供たちに明るい未来が提供できるのか?という疑問を新井教授は抱きました。

 2013年にオックスフォード大学の研究チームが発表した10~20年後に残る職業の共通点は、高度な読解力と常識、加えて人間らしい柔軟な判断が要求される分野で、AIが不得意な分野と一致します。新井教授は、それまで誰も疑問を持たなかった「誰もが教科書の記述は理解できるはず」という授業の前提に疑問を持ち、全国25,000人を対象に、独自で開発をした「基礎的読解力調査(リーディングスキルテスト:RST)」を実施。AIが80%程度の精度を持つ「照応(主述・修飾被修飾の関係)」「係り受け(指示語)」に加え、AIにはできそうもない「同義文判定(2つの文を読み比べて意味が同じであるかを判定)」「推論(生活体験や常識から意味を理解する能力)」「イメージ同定(文章と図やグラフを比べて内容が一致しているかどうかを認識する能力)」「具体例同定(定義を読んでそれと合致する具体例を認識する能力)」を加えた6つの観点から作成しました。

 その結果は、「照応」の正答率が中学生6割・高校生7割、「係り受け」は中学生7割弱・高校生8割弱で意味を理解できないAI並み。「同義文判定」中学生6割弱・高校生7割、「イメージ同定」1~2割・高校生3割前後でした。鉛筆を転がして選択肢を選ぶ程度のランダムさしか示していない結果もあります。PISA読解力2015年世界8位の日本ですが、移民の少ない国で日本語を母国語として育つ子供の割合が極めて高いにも関わらず、3人に1人が教科書を読めない(内容理解を伴わない表層的な読解もできない)子供がいるのは、なぜか?これでは、AIに職を奪われても仕方ありません。

新井氏がこの読解能力調査で分かったことは、
・高校の偏差値との相関は高い
・中学では向上するが、高校では向上していない
・家庭の経済状況とは逆になる
・通塾や読書の好き嫌い、科目の不得意、スマホの利用時間、学習時間とは無関係など。

 私たちも読解力の低下は何となく感じていましたが、理数の能力はとても優れているのに、問題の文章が正しく読み取れていないために正答することができない場面が気になっておりました。リトルダヴィンチ理数教室では問題文を正しく読み取る練習として9月から「算数・数学思考力検定」の過去問を扱う授業を加えたのは、このような背景があるからです。新井教授の研究は進んでいくと思いますが、私共教育に携わる者として、真剣に向き合って考えなければない重要な問題だと思います。

トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳


トゥルース・アカデミー
http://truth-academy.co.jp/